酵素

酵素とは、生物が物質を消化・吸収・輸送・代謝・排泄を行うための化学反応において、触媒として機能する分子で、生命維持には欠かせないものです。体内の酵素は、大きく分けると消化酵素と代謝酵素の2種類に分けられます。(※触媒とは、特定の化学反応の反応速度を速める物質で、自身は反応の前後で変化しないもの。)

消化酵素には代表的なものとして、炭水化物を消化するアミラーゼ、たんぱく質を消化するプロテアーゼ、脂質を消化するリパーゼがあり、合わせて24種類程が発見されています。
代謝酵素とは、体内の代謝を司る酵素であり、人間の体内だけで3000種類程が発見されています。
消化酵素によって分解・吸収された栄養素は、体内の各細胞に送られてエネルギーを生み出しますが、これは代謝酵素の働きです。また、新陳代謝を行う作用や、各臓器を正常に働かせる作用など、体内のあらゆる生命活動に関わっています。

体内の酵素は、主に膵臓で作られ、消化酵素・代謝酵素(=合わせて潜在酵素ともいいます)が必要な時に分泌されますが、その量は加齢と共に段々と減少していきます。これが老化の根本的原因ともいわれ、酵素の量が少なくなったために、新陳代謝が十分行えなくなった結果といえます。そして、体内の酵素が尽きてしまうと、生命活動を維持できなくなるため、生命は終焉します。従って、酵素を過剰に消費させず、大事に使うことが長生きの秘訣になります。酵素を大量に消費させる行為の一例としては、暴飲・暴食や、スポーツなどで体を必要以上に酷使することが挙げられます。プロスポーツ選手の中には、強靭な肉体を持っているにも関わらず、意外と病気になって早くに亡くなる方もみられますが、それは鍛えすぎて酵素を大量消費した結果ともいえます。それでは、酵素を大事に使うことに細心の注意を払いながら生きて行かない限り、健康で長生きできないのか?と問われそうですが、次項で述べる体外酵素というものによって解決できます。

体外酵素(食物酵素)の概念

体内酵素である消化酵素と代謝酵素の2種類の他に、体外酵素という概念があります。体外酵素とは、体の外から摂取する酵素のことで、植物や肉類などに含まれている酵素のことをいいます。
人間だけではなく、他の動物や植物も当然ながら独自の体内酵素を持っていて、生命活動には欠かせないものです。しかし、人間以外の動物は、自身の消化酵素をほとんど使っていないといわれています。草食動物が植物を食べたり、肉食動物が他の動物を食べたりする際は、食べられる側が持っている消化酵素を使って、その物を消化・吸収しているため、自身の消化酵素は殆ど使用しなくて済むのです。このような食物に含まれている酵素は、食物酵素と呼ばれます。

例えば、草食動物のウシは4つの胃を持ち、食べた草を反芻します。前3つの胃には微生物が存在し、草に含まれる酵素を働かせる役割があります。ウシは自身の消化酵素を使わず、草に含まれる酵素を使い、時間をかけて反芻することによって、食べた草を消化しています。
肉食動物のライオンは、草食動物を捕らえて食べますが、まずは内臓を先に食べ、その後肉の部分を食べます。食べた後、ライオンは1~2日じっとして動きませんが、これは食べた草食動物の内臓に含まれる消化酵素を使い、時間をかけて肉を消化するためです。
人間以外の動物は、体外酵素である食物酵素を消化に使うことによって、自身が持つ消化酵素を使わずに貯蓄し、その分を代謝酵素に回しているのです。消化は体内酵素を大量に消費しますが、それを食物酵素で代替しています。その結果、野生動物は、酵素を代謝に集中して使うことができるため、体の健康状態を維持し、元気に生存できているのです。野生動物が伝染病以外の病気になることが稀なのは、十分に代謝酵素が働いている結果なのです。

慢性的な酵素不足の状態にある現代人

人間についても、本来は野生動物と同じで、食物酵素によって消化をしていたのですが、現代ではそれができなくなってきています。その結果、体内酵素が慢性的に不足し、代謝が十分できずに不健康になりがちです。肥満は代謝が上手くできていない状態ですので、酵素不足の状態とも言えます。
現代人が食物酵素を十分に使えなくなった理由は、火(熱)を使った調理が登場したためです。酵素は熱に弱く、48℃以上の熱で死滅(失活)していきます。人間が食べる野菜や肉類には、本来はそれなりの量の食物酵素が含まれているのですが、調理の際に加熱することによって、それらの酵素は死滅してしまいます。従って人間は、自身の持つ消化酵素で消化せざるを得ないのです。
膵臓は必要に応じて消化酵素を分泌したり、代謝酵素を分泌したりするのですが、膵臓で作ることのできる体内酵素の量には限りがあるので、消化酵素ばかりを分泌してしまうと、代謝酵素を十分に作れなくなり、新陳代謝がおろそかになります。そのため、老化が進み、病気にもかかりやすくなります。食卓に並ぶ食べ物は、生のものは少なく、加熱調理したものがほとんどを占めているのが現状です。現代人に肥満や生活習慣病が多くなったのは、食物酵素を使えなくなったことにより、体内酵素を消化酵素に大量に回さなければならないため、代謝が不十分になることが要因であります。
エスキモーの食事は生肉のみにも関わらず、病気にかからずに健康でいることが分かっていますが、それは酵素の本質を伝統的に知っているためです。なお、加熱調理の文化が流入した地域のエスキモーの場合は、現代人と同様の疾病にかかっていることが分かっており、食物酵素の重要性を示唆しています。

※消化酵素・代謝酵素の割合を1:1としたイメージです

 

食物酵素を含む食品

刺身や生野菜などの生の食品に含まれる食物酵素は、その食物を消化できる分の量のみが含まれています。含まれる食物酵素の量は、その食品の持つカロリー量に比例しており、そのため肉類や魚介類では多く、野菜類では少なくなります。従って、生野菜を多く摂ったとしても、その食べた野菜のみを消化する分の酵素しか摂ることができません。
納豆や味噌、漬物などの発酵食品は、発酵によって酵素が増えた状態にあり、日本人は古来よりそういった食品を利用してきました。発酵食品には、麹発酵による醤油や味噌、酵母発酵によるパンや酒、乳酸菌発酵によるぬか漬けやヨーグルト・チーズ、納豆菌による納豆などがあります。

酵素サプリメントの利用

体外酵素研究の第一人者であるエドワード・ハウエル博士は、現代人は、生食を75%、加熱食を25%の比率にすることで、たっぷりの食物酵素を取り込み、消化酵素を節約して代謝に十分酵素を回すことができ、病気にほとんどかからないと提言していますが、現代でそれを実践するには毎食、刺身や生野菜、生の果実、発酵食品を75%も食べる必要があるので、なかなか困難です。
また、消化酵素の消費を節約する方法として、食べ過ぎない、よく噛む(消化酵素の働きを助ける)、(消化酵素を余計に消費する)食品添加物の少ない食品を選ぶなどがあげられます。これは健康に生きるためによく言われることです。

そんな中、現代でこの酵素の効率化を実践できる方法として、生酵素を直接摂取するという方法があります。生酵素とは、加熱処理を加えずに生きている状態の酵素のことをいいます。
生酵素を沢山含んだサプリメントを摂り入れることにより、食物酵素の代替となり消化酵素の節約が可能です。なお、酵素サプリメントを利用する際は、食事を食べる直前に摂取するのが効果的です。これは酵素によって事前消化を行うことによって、膵臓からの消化酵素の分泌量を少なくし、体内酵素を節約する効果があるためです。

事前消化について

人間以外の動物の体内酵素の量は、人間と比較して少なく、その少ない体内酵素を補うために食物酵素を利用しています。動物は、食物酵素を利用するために、食物酵素胃と呼ばれる特別な臓器を持っています。人間とは異なり、ウシやヒツジなどの反芻動物の唾液には食物酵素は含まれておらず、その代わりに活躍するのが食物酵素胃です。ウシやヒツジは4つの胃を持っていますが、体内酵素が分泌されるのはそのうち最も小さい最後の1つの胃だけで、手前の3つの胃は食物酵素胃になっています。食物酵素胃内には原生微生物が住んでいて、ウシやヒツジが食べた草を分解・発酵することで、草に含まれている栄養分を消化・吸収することができます。つまり、ウシやヒツジは、食べた草を自分の消化酵素を使用することなく、原生微生物によって消化してもらっているのです。その消化・吸収を行う作業が反芻(はんすう)です。4つの胃の内、前2つは原生微生物の発酵専用として使い、食べた草を時間を掛けて原生微生物に分解してもらうため、ある程度消化が進むと口に戻し、再度かみ砕いて柔らかくし、もう一度前2つの胃に送り込み、原生微生物によって完全に発酵してもらっているのです。このように口→胃→口→胃と食物を移動させることを反芻といいます。食べた草が完全に分解・発酵されると反芻は終わり、次に3つ目の胃に送られて、そこで水分が吸収されます。その次に4つ目の胃に送られて、ここで自らが持つ体内酵素によって、栄養分が吸収され、体内に運ばれます。草食動物の多くが、特定の種類の草しか食べないのは、体内に住む原生微生物が分解できる草の種類が決まっているからです。
肉食動物にも食物酵素胃が存在しており、クジラは動物の中で一番大きな食物酵素胃を持っています。クジラ類には3つの胃をもつものが多く、最前部の胃が食物酵素胃としての働きをしています。かつて、大きなクジラの胃を解剖した際、最前部の胃から32頭ものアザラシが出てきたこともあるそうです。クジラの食物酵素胃には消化酵素はないので、アザラシの胃の中にある消化酵素と膵液を利用し、時間をかけてアザラシを消化していきます。ライオンやヘビなどの肉食動物が、食事の後、長い時間身動きせずにじっとしているのは、食べた動物の消化酵素によって消化をしているためで、その場所が食物酵素胃と呼ばれる胃なのです。
実は、体内酵素を多く持つ人間にも、食物酵素胃に当たる臓器があり、胃の最前部の噴門と呼ばれる場所です。食べた食物は、食道を通って胃に入ると、噴門付近に一旦留まり、ここで食物に含まれる食物酵素によって事前消化が行われるのです。その後、胃の奥の方に送られ、膵臓から分泌される消化酵素によって、本格的な消化が行われます。事前消化をすることで、使用する消化酵素の量を減らそうとする仕組みなのです。しかし、現代人が食べる食物の大半は加熱されて、食物酵素はすでに死活しており、事前消化はできないのです。従って、事前消化がされないまま胃の奥へ運ばれ、消化酵素が大量に分泌され、消化されていくのです。消化には大変なエネルギーを要しますので、消化酵素を大量に使いすぎると、代謝酵素に回せる量が減ってしまいます。そのため、代謝が不十分となり、不健康になっているのが現代人の状況です。代謝酵素を十分働かせるためには、消化酵素を使いすぎないことが重要です。腹八分目が健康の秘訣と言われるのも、体内酵素の使用量と関係しているのです。肥満は、代謝酵素が不十分であることの典型であり、代謝が十分に行われないので脂肪として溜まってしまうのです。

自己消化(自己融解)

先の事前消化の中に、食べた動物の酵素によって分解、消化されるということについての補足です。
生き物は、死んだら腐りなくなります。これは、死んだ直後から、体内の酵素によりタンパク質や脂肪、糖質が溶けて軟らかくなるためです。胃や腸などの消化管が自らの消化酵素で融解されることを自己消化ともいいます。野生の動物は、このように死んだ直後から自己融解しはじめ、まわりの微生物や菌がさらに分解して、跡形もなくなります。
クジラに食べられたアザラシはクジラの胃の中で自己消化(自己融解)していることが、クジラの事前消化を助けていることになります。
人間が食する肉や魚も、生物の自己融解との闘いで、解体、冷凍、冷蔵、輸送などの技術で鮮度を保持し、おいしくいただくことができます。また、生物の自己融解を遅らせ、熟成、発酵につながります。

酵素を取り入れると

酵素サプリメント、生食、発酵食品など、積極的に酵素を摂りこむことで、食物の事前消化を行い、消化酵素の分泌量を減らし、代謝酵素の量を増やすことになり、正常に代謝が行われるようになります。
脂肪も燃焼されやすくなるので、肥満の防止や改善にもつながるといえます。また、肥満を解消することで、各臓器や器官の負担を軽減し働きの正常化にもつながります。
疲れやすかったり、慢性的にだるい等の状態は、代謝酵素が不足し、代謝が十分に行われていないことも要因の一つです。体外酵素を摂りいれ、代謝が十分になれば、新陳代謝も正常に行われ、徐々に不調が解消され体力が戻ってきたことを感じることができるでしょう。また、肌や髪にハリやつやが出てくるなどうれしい効果も期待できそうです。